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ドクターのアドバイス

札幌南一条病院工藤靖夫 医師

私が40年前に、医師になって初めて受け持った患者さんが、糖尿病性腎症の患者さんでした。糖尿病性網膜症で、目が幾分不自由で、腎機能も低下していました。当時、ちょうど必須アミノ酸製剤の臨床治験が始まったばかりの頃で、大阪大学の先生に手紙を書いて、製薬会社からその薬を取り寄せる事ができました。その効果が少しでもあれば良いと願いつつ、患者さんの腎機能の推移(クレアチニンの逆数)を図にプロットしたり、患者さんの尿の窒素分を測定して、窒素バランスを測ったことなども、思い出されます。この薬は、今ではアミノ酸製剤として、保険使用ができるようになりました。この頃から、タンパク質や食塩などの食事療法の重要性を学びました。
ただ、食事療法は、患者さんが理屈では分っていても、実践して継続することが、非常に難しい事も分りました。逆に、あまりに厳しく制限しすぎて、栄養状態が悪くなる患者さんも見受けられました。なんとか、食事療法を適切に継続できるようなよい方法はないかと模索しておりました。最近では、ITも発達して、40年前とは大きく状況が違います。料理動画を見て実際の自分の献立に役立てることも、格段に簡単になっています。これを使用しない手はありません。
今回、この考えに同調して頂いた、インスタグラマー・シェフ・管理栄養士さんの協力を得て、料理動画提供サイトを立ち上げることができました。少しでも使いやすくなるように、患者さんの要望に合わせて、内容も改善していこうと思います。また、基本的な腎臓病・糖尿病の医学的な知識や最新情報についても、医師の立場で発信していこうと思っています。この動画サイトが、多くの患者さんの役に立つことを、心から願っています。

【医師の記事】糖尿病と腎臓障害

 

  • ●はじめに

糖尿病は、紀元前1550年に記載されており、3000年以上前から存在する病気です。日本でも藤原道長が糖尿病の合併症にかかっていたことが残されています。このように人類と糖尿病の付き合いは長く、全世界の糖尿病患者数は、4億2500万人(2017年)と、世界の成人の11人に1人が糖尿病とされています。日本でも、60年前は約10万人といわれた糖尿病患者が、現在では1000万人(2016年)の大台になっています。

 

 

  • ●診断

糖尿病に罹患後、20年ほどで、30%の患者さんが腎機能障害を起こすとされています。早期の所見は、微量タンパク尿です。定期的に病院を受診されている方は、微量タンパク尿のチェックが、早期診断のため必要です。その後、病期が進むと顕性タンパク尿(尿検査でタンパク陽性)が出現し、徐々に、腎機能は低下してきます。

 

 

以前は、糖尿病の腎障害は不可逆的(良くなることはない)と考えられてきましたが、1998年に膵臓移植をした糖尿病患者さんの腎障害が、移植5年後では改善が認められなかったものの、10年後には正常化していることが報告されました。特に、糖尿病の早期から、血糖を厳格に治療すると、腎臓を含めた合併症が改善することが分ってきました。

 

 

  • ●治療(糖尿病のABCキャンペーン)

2003年のTIME誌に“The ABCs of Diabetes”という題の啓蒙記事が掲載されました。糖尿病の人には、A= HbA1c, B= Blood pressure、C= Cholesterolの治療が必要であるということが、米国の内科医会のガイドラインとともに記載されました。つまり、血糖をコントロールするだけでなく、高血圧や高脂血症も厳格に治療するという集約的治療の概念が一般市民向けに発信されたのです。

高血圧の治療が導入されてから糖尿病性腎症の予後はどうなったかを、1996年にParvingらが報告しています。かれらは1971年には、5年で半数が蛋白尿出現後に腎機能の廃絶を認めるが、1996年にはそれが16年以上まで延びていること、腎症を持つ患者が、たとえHbA1cが9%と高値でも平均血圧を93mmHgにすると、蛋白尿から微量アルブミン尿に戻る患者(退縮)が6割、老化による腎機能低下と同じく糸球体ろ過値(GFR)の低下率が1ml/min/年になる患者(寛解)が4割になることも報告しています。

 

 

 

一方、しっかり血圧をコントロールした後に、血糖コントロールした場合、腎機能への影響はさまざまであるが、年間の腎機能(GFR)低下率はHBA1cの高い人ほど大きく、低い人ほど小さいことが、報告されています。

 

 

 

つまり、ABCの3つの危険因子をすべてコントロールすれば、下図のように糖尿病性腎症は進展しないと強調される所以です。

 

 

 

 

 

 

 

  • ●糖尿病性腎臓病

2007年になると、通常考えられていた糖尿病性腎症の経過を伴わない病態が注目されてきました。糖尿病性網膜症を合併しない症例、急激な腎機能の低下を示す例、急激にタンパク尿が出現し、ネフローゼ症候群を示す例、難治性の高血圧を示す例、レニン・アンジオテンシン系阻害剤を使用したところ急激に腎機能の悪化した症例などです。

これらは従来の糖尿病性腎症とは違い、糖尿病に合併した腎臓障害という意味で、糖尿病性腎臓病と名付けられました。社会の高齢化に伴い、病態が変わってきたものと考えられます(おそらく多くは、高齢化による腎硬化症やその他の腎臓病が合併しているものと推測されています)。

 

 

  • ●病型診断

そのため、2013年には糖尿病の病型分類は、タンパク尿の有無と腎臓機能障害の有無で、分けられるようになりました。

 

 

 

  • ●最近の糖尿病治療方針

糖尿病性腎臓病の概念が出てから、薬剤治療方針も変化してきました。

従来は、血糖は厳格に管理した方が予後は良いとされていましたが、2007-2009年にかけて発表された大規模臨床試験では、心臓血管合併症に関しては、差がなかったとされました。むしろ厳格に血糖を管理した方が低血糖を生じて、予後が悪いとされる報告もありました。

それらを踏まえて、日本でも血糖管理は、HbA1c7%以下を目指すことが、示されました。

特に高齢者では、それ以上でも良いという方針も発表されました(糖尿病ガイドライン2016-2017)。

 

 

 

  • ●最近の糖尿病薬

2009年に、DPP4阻害薬、2010年にGLP1受容体作動薬、2014年にSGLT2阻害薬と、新しい薬が、上市されています。

この中で特に、SGLT2阻害薬は、大規模臨床試験で心臓血管合併症の発生を抑制して、死亡率を下げていることが報告されましたので、今後、日本でも使用頻度は増加する事が予想されます。

 

 

  • ●糖尿病患者の血圧管理

糖尿病患者の血圧管理については、世界でまだ統一した見解が示されていません。

日本では、130/80以下とされていますが、最近では、下げすぎると腎機能に良くないことや、高齢者では下げすぎないようにするなど、注意が必要です。